個人立幼稚園の会計処理
(2021年6月1日更新)
1.個人立幼稚園の会計と税務
幼稚園の中には、学校法人ではなく、個人立や宗教立などで運営している「個人立幼稚園」があります。この場合、事業主は税法に基づき会計処理を行い、所得税の確定申告を行います。一方で、個人立幼稚園として、学校法人会計基準に従って会計処理を行い、計算書類を作成する必要もあります。
税法と学校法人会計基準では会計処理に違いが生じるとともに、決算のタイミングも異なるため、事務処理の負担が重くなります。
そこで、学校法人会計基準の例外処理が認められるかという論点が生じ、15個の論点について問答集が公表されています(「個人立幼稚園の会計処理に関する実務問答集(中間報告)」(日本公認会計士協会学校法人委員会 昭和57年8月4日))。
2.学校法人会計基準の例外処理
「個人立幼稚園の会計処理に関する実務問答集(中間報告)」より、15個の論点に関する結論をまとめました。
(1)会計帳簿
税務と学校法人会計基準では会計期間と会計処理方法が異なる。また予算統制の面でも不便が生ずることから、税務申告用の帳簿とは別に学校法人会計基準に準拠した帳簿を作成しなければならない。
(2)青色申告の簡易帳簿
学校法人会計基準では複式簿記の原則によって記帳することとされており、簡易帳簿では不十分と言える。
(3)基準適用初年度の資産の評価
資産の評価は「学校法人会計基準の実施について(報告)」(学校法人財務基準調査研究会 昭和45年12月1日)を参照する。
(4)初年度の基本金
① 期首に有している資産のうち、学校法人会計基準第30条第1項に該当する資産の額を基本金に組み入れる。
② ①の基本金組入れの対象となる資産の取得を目的とした借入金などの額は、基本金への組み入れを翌会計年度に繰り延べることができる。
③ 基本金要組入額から基本金未組入額を差し引いた額を、初年度の基本金額とする。
④ 第4号基本金の全部または一部を基本金に組み入れないことができる。また未組入額がない場合には、基本金明細表の作成を省略できる。
(5)基本金の決定
第4号基本金を組み入れないことができる。
(6) 機器備品の計上基準
税法では必要経費として認められる機器備品についても、所轄県庁の指示に従い、資産計上しなければならない。
(7) 図書の資産計上
税務上経費処理される10万円未満の図書についても、長期間にわたり保存使用が予定されているものは資産計上する。
(8)減価償却の方法
税務上は定率法を採用しているものについて、学校法人会計基準でも、定率法のままで差支えない。
(9)事業主の報酬にかかわる会計処理
大科目「人件費(支出)」に適当な小科目(事業主が園長である場合には、例えば、「教員人件費(支出)」)を用いて処理するのが妥当である。なお、報酬の額を定めず、事業主が必要に応じて随時引き出す方法は望ましくない。
(10)事業主の所得税及び住民税
事業主が幼稚園の経営以外に所得がある場合、幼稚園経営の所得に対応する所得税及び住民税のみを幼稚園会計に計上し、計算書類上の表示は、人件費(支出)に含めて処理するのが妥当である。
(11)事業主からの借入金
返済予定のある借入金は、小科目「事業主借入金」などで処理し、固定・流動の区分を行う。なお、所轄庁からの指示で、借入金に利息を付してはならない。また返済予定のない場合は、大科目「雑収入」、小科目「事業主填補金収入」として処理するのが妥当である。
(12)他会計への支出
助成法による助成を受けている場合は、例えば、事業主の自宅購入のための資金貸付など、他会計への支出をしてはならないこととされているので、速やかに填補する。
(13)銀行預金利息等
銀行預金利息または配当金は、税務上は利子所得又は配当所得となり、事業所得としての幼稚園会計から除かれる。一方、学校法人会計基準では、大科目「資金運用収入」、小科目「受取利息・配当金(収入)」などで計上しなければならない。
(14)固定資産の売却損益
事業用固定資産の売却損益は、税務上は譲渡所得となるため、事業所得の計算からは除かれる。一方、学校法人会計基準では、資金収支計算書に大科目「資産売却収入」、小科目「車輛売却収入」などとして計上する。消費収支計算書では、例えば売却益が生じた場合は、大科目「資産売却差額」、小科目「車輛処分差額」とし、売却損が生じた場合は、大科目「資産処分差額」、小科目「車輛処分差額」としなければならない。
(15)国庫補助金等
国又は地方公共団体から固定資産取得のための補助金を収受した場合、所得税法では収入に計上しなくてよい場合があるが、学校法人会計基準では、「補助金(収入)」に計上しなければならない。