学校法人の貸借対照表・その他の固定資産
(2021年6月1日更新)
1.その他の固定資産の表示
貸借対照表の特定資産は次表のように計上されます(学校法人会計基準別表第三)。
科目 | 備考 | ||
大科目 | 中科目 | 小科目 | |
固 定 資 産 |
その他の固定資産 | ||
借地権 | 地上権を含む。 | ||
電話加入権 | 専用電話、加入電話等の設備に要する負担金額をいう。 | ||
施設利用権 | |||
ソフトウェア | |||
有価証券 | 長期に保有する有価証券をいう。 | ||
収益事業元入金 | 収益事業に対する元入額をいう。 | ||
長期貸付金 | その期限が貸借対照表日後1年を超えて到来するものをいう。 |
借地権は、他人の所有している土地を使用するために支出した権利金等の金額をいいますが、減価するものではないため減価償却は行われません。一方で、施設利用権は、施設を利用する権利や、他人が建設した建物等を長期間占有して使用するために支出した権利金等であり、対象施設の老朽化や契約期間の満了により減価または消滅するため、定額法によって減価償却計算を行います。
2.ソフトウェアの会計処理
学校法人会計におけるソフトウェアの会計処理は、「ソフトウェアに関する会計処理について(通知)」(平成20年10月9日高私参第3号)にて規定されています。
●会計処理
ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラム及びこれに関連する文書をいいます。ソフトウェアについては、その利用により将来の収入獲得又は支出削減が確実であると認められる場合には、当該ソフトウェアの取得に要した支出に相当する額を資産として計上し、それ以外の場合には経費として処理します。
●教育研究用ソフトウェアと事務用ソフトウェア
学校法人において利用されるソフトウェアには、教育研究の質的向上等の目的で利用される教育研究用ソフトウェアと学校法人の効率的な運営等に資する目的で利用される事務用ソフトウェアがあります。
教育研究用ソフトウェアは、その利用に伴い外部より相当額の利用料を徴収する等の例外的なものを除き、将来の収入獲得又は支出削減が確実であると認められない場合が多く、この場合には経費として処理することになります。一方、事務用ソフトウェアは業務の効率化のために使用することが多く、それによって支出削減が確実であると認められる場合には資産として計上します。
●機器備品組込ソフトウェア
機器備品等に組み込まれているソフトウェアは、両者が別個では機能せず一体としてはじめて機能するものであり、経済的耐用年数も相互に関連性が高いことから、原則として両者を区別せず、当該機器備品等に含めて処理します。
●減価償却と勘定科目
ソフトウェアの資産計上は、学校法人の採用する固定資産計上基準額以上のものとし、耐用年数は、学校法人が当該ソフトウェアの利用の実態等を勘案して、自主的に決定することとします。
ソフトウェアを資産として計上する場合には、資金収支計算書では「設備関係支出」の小科目として「ソフトウェア支出」等、貸借対照表では「その他の固定資産」の小科目として「ソフトウェア」等の適切な科目を設けて処理します。
なお、学校法人におけるソフトウェアの会計処理については、学校法人委員会実務指針第42号「ソフトウェアに関する会計処理について(通知)」に関する実務指針」(平成26年7月29日、公認会計士協会)において具体的な処理が記述されています。
3.学校法人会計における有価証券の会計処理(基準と時価)
学校法人会計基準では、有価証券の範囲が規定されていないため、どこまでを有価証券として取扱うのかが明記されていませんが、学校法人委員会研究報告第29号「有価証券の会計処理等に関するQ&A」(平成26年7月29日、日本公認会計士協会)では、金融商品取引法や企業会計基準の規定などを考慮して解釈するのが適当であるとされています(Q2)。
学校法人会計では、企業会計と異なり、保有目的別の会計処理は採用されず、学校法人会計基準第25条に従って、すべて取得価額によって評価・計上されます。但し、その時価が著しく低下した場合は、評価替えすることが求められています(学校法人会計基準第27条)。この評価替えについては、有価証券勘定に計上されるものだけでなく、特定資産に含まれる有価証券も該当します(学校法人委員会研究報告第29号Q7)。
学校法人会計基準 第27条(有価証券の評価替え) 有価証券については、第25条の規定により評価した価額と比較してその時価が著しく低くなった場合には、その回復が可能と認められるときを除き、時価によって評価するものとする。 |
ここで、有価証券の取得価額と比較する「時価」とは、公正な評価額を指し、取引を実行するために必要な知識を持つ自発的な独立第三者の当事者が取引を行うと想定した場合の取引価額をいい、金融商品会計基準に定める内容と同じです。
有価証券に付すべき時価には、当該有価証券が市場で取引され、そこで成立している価格がある場合の「市場価格に基づく価額」と、当該有価証券に市場価格がない場合の「合理的に算定された価額」とがあります。具体的には以下のようになります(学校法人委員会実務指針第45号「学校法人会計基準の一部改正に伴う計算書類の作成について(通知)に関する実務指針」(平成26年1月14日、日本公認会計士協会)4-2)。
●株式の場合
株式に付す時価は市場価格とし、市場において公表されている取引価格の終値を優先適用し、終値がなければ気配値を適用する。当日の終値も気配値も公表されていない場合は、同日前直近において公表された終値又は気配値とする。また、ブローカーの店頭及びシステム上において取引されている株式については、そこで成立している売買価格又は気配値を市場価格とする。
なお、市場価格のない有価証券のうち、株式については当該株式の発行会社の実質価額(一般に公正妥当と認められた企業会計の基準に従い作成された財務諸表を基礎とした1株あたりの純資産額)を時価とみなす(「学校法人会計基準の一部改正に伴う計算書類の作成について(通知)」(平成25年9月2日25高私参第8号)。Ⅱ2(2))。また、当該発行会社の資産の含み損益などを考慮することができる状態であれば、実質価額を算定する(実務指針45号4‐6)。
●債券又は証券投資信託
債券又は証券投資信託に付す時価は市場価格とし、市場価格がない場合には、市場価格に準ずるものとして合理的に算定された価額が得られればその価額とする。債券の市場価格とする取引価格は、株式の取引価格に準じた終値又は気配値とする。なお、合理的に算定された価額を取扱金融機関等(証券会社、ブローカー、情報ベンダーを含む。)に問い合わせることも考えられる。
4.学校法人会計における有価証券の会計処理(著しく低くなった場合)
上記のとおり、学校法人会計基準第27条では、有価証券の取得価額と時価とを比較して「著しく低くなった場合」に、その回復可能性が認められるときを除き、評価替えすることを求めています。
ここで、これらの時価が取得価額に比べて50%以上下落した場合には、特に合理的と認められる理由が示されない限り、時価が取得価額まで回復が可能とは認めないものとし、時価の下落率が30%以上50%未満の場合には、著しく低くなったと判断するための合理的な基準を設けて判断することになります(25高私参第8号Ⅱ2(1))。
●50%下落の場合
時価が取得価額に比して50%減となるときは、合理的な理由がない限り、評価減を行うことになります(実務指針45号4‐3)。
「特に合理的と認められる理由が示されない限り」評価替えが行われますが、「特に合理的と認められる理由」とは、時価が取得価額まで回復する見込みがあることを合理的な根拠をもって予測できる程度の理由を指します。これは実務的に示すことは極めて困難です。おそらく、このようなケースは、会計年度末から計算書類の理事会承認日までの間に、時価が取得価額まで回復している場合のように、回復の事実が明らかな事象に基づくケースなど、あくまで限定的に解釈すべきと考えられます(実務指針45号4‐4)
●30%以上50%未満の下落のとき
一方で、50%以上の下落とはならないまでも30%以上の下落となった場合には、著しく低くなった場合に該当するかを各学校法人の判断で合理的な基準を設けて判断するが求められます。なお、30%未満の下落は著しい下落には一般的には該当しません(実務指針45号4‐3)。
学校法人で定める「合理的な基準」ですが、個々の学校法人においてそれぞれ設けることになるため、様々なものが考えられますが、具体的に、どのような場合に「著しく低くなった」と判断するのかを明確にしておくことが必要です。
その指標としては、例えば、株式については株価の推移、株式の発行会社の財政状態、株式の発行会社の経営成績の推移などがあります。また、債券については格付け機関による格付け、債券の発行体の財政状態、債券の発行体の経営成績の推移などが考えられます。なお、恣意性を排除するために、「合理的な基準」については文書をもって設定しておき、毎期継続的に適用することが必要です(実務指針45号4-5)。
なお、評価減された場合、当該評価差額は、事業活動収支計算書の特別収支において大科目「資産処分差額」の小科目「有価証券評価差額」もしくは「〇〇引当特定資産評価額」という勘定科目で処理されます。
5.学校法人会計における有価証券の会計処理(債券の会計処理)
学校法人委員会研究報告第29号Q4では、債券を債券金額と異なる金額で取得した場合の会計処理が定められています。
学校法人が取得した債券の貸借対照表価額は、取得価額又は償却原価法による価額となります。償却原価法とは、債券を債券金額より高い又は低い価額で取得した場合において、当該差額に相当する金額を償還期に至るまで毎期一定の方法で貸借対照表価額に加減する方法をいい、債券金額と取得価額の差額は、一般的には金利調整差額であると認められることから、取得原価の枠内で認められれています。なお、この場合には、当該加減額を教育活動外収支の受取利息で処理することになります。
償却原価法は定額法と利息法がありますが、多くの学校法人では定額法を採用しているものと思われます。